債務整理

自己破産すると年金は差し押さえられてしまうのか!?

最近、高齢者の貧困が社会問題になってきています。高齢者の方で自己破産などの債務整理をされる方も増えています。

そういう方の質問で多いのが、「年金をもらっているのだが自己破産できるのか?」「自己破産すると年金も差し押さえられてしまうのか?」といったものです。

この記事では、自己破産と年金の関係について解説していきます。

1.自己破産

(1) 自己破産とは

自己破産とは、一定の財産を除き全ての財産を処分するかわりに、原則として全ての債務を免除してもらう、債務者にとっての救済措置になります。

裁判所で借金の支払いが不可能であると認められ、免責が許可されると、税金などを除いた全ての債務を支払う必要がなくなります。

自己破産するのに債務額の制限はありません。債務者にとっての負債額の重さを収入や資産などから総合的に考慮し、許可するかどうか判断されます。

(2) 自己破産における同時廃止と管財事件

自己破産には2つのパターンがあります。同時廃止と管財事件です。

何が違うのかというと、自己破産の手続きの中の「破産手続」と呼ばれる手続きを省略するかしないか、という点です。

破産手続とは、破産者の財産を処分して、債権者に配当する手続きのことを言います。

破産管財人と呼ばれる人が裁判所から選任され、それらの行為を行います。

しかし、もし換価・処分すべき財産がないことが明らかな場合は、わざわざ破産管財人を選任して手続を進めるまでもありません。
そのため、破産法は「破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるときは、破産手続開始の決定と同時に、破産手続廃止の決定をしなければならない。」と定めています(破産法216条1項)。

破産手続開始決定と「同時に」破産手続廃止の決定をするので、「同時廃止」と呼ばれ、破産管財人が選任されずに破産手続が終了することになります。

(3) 自己破産で処分されない財産

自己破産をするのに、全ての財産を処分しなければいけないわけではありません。そんなことをしてしまったら、自己破産者のその後の生活が困窮してしまいます。

よって、以下のものは「自由財産」として、自己破産後も処分されずに手元に残しておくことができます。

  • 新得財産(破産手続を始めてから新しく取得した財産)
  • 99万円以下の現金
  • 差押禁止財産(生活必需品など)
  • 破産財団から放棄された財産(換価処分が不可能とされた財産)
【自由財産の拡張について】
上記のような自由財産を残しただけでは、破産者の最低限度の生活を維持できないという場合もあります。そういう場合、各裁判所の裁量で自由財産が拡張されます。
具体例は、持病を患っている方の生命保険(解約されてしまうと二度と保険に加入できない可能性が高い)や、足が不自由で自動車がなければ生活できない方の所持している自動車などです。これらの場合だと、所持が認められるケースもあります。
自己破産は、破産者の生活の再建の為の制度ですので、その後の生活に困窮してしまうようなことがないよう考慮されます。

2.年金の種類

続いては、年金の種類ごとの自己破産での取り扱いを解説していきます。

(1) 公的年金と私的年金

まず公的年金とは、日本に住んでいる20歳以上60歳未満の全ての人が加入する「国民年金」と、会社などに勤務している人が加入する「厚生年金」の2つがあります。

国民年金は、原則20歳以上60歳未満の全ての人に加入義務があります。
その上で、第2号被保険者とされる会社員や公務員の人が厚生年金保険に加入することになっています。

一方、私的年金とは、公的年金とはまた別である、個人が加入している年金保険の事を指します。有名なものだと、国民年金基金、確定拠出年金、確定給付企業年金などです。

民間の保険会社が売り出している個人年金保険も私的年金とされます。

(2) 公的年金は破産で差し押さえられない

自己破産の際、公的年金は処分(差し押さえ)されません

公的年金は、自由財産の「差押禁止財産」にあたるとされているからです。
法律で決まっているため、絶対に受給資格はなくなりません。

まだ年金を受給していなくて、これから受給するという場合も同様です。自己破産が原因で、将来の年金が受給できなくなる(差し押さえ・処分される)事はありません。

それに対し、一部の私的年金は破産管財人に解約させられてしまいます。具体的には、私的年金の解約をした際に発生する「解約返戻金」というものが資産にみなされるのです。

東京地方裁判所ですと、解約返戻金が20万円を超えてしまう場合は、解約しなければいけなくなってしまいます。なお、これは生命保険であっても同様です。(破産法34条2項)。

詳細は裁判所によって変わってくるので、弁護士に相談してみてください。

自己破産をしたら生命保険は解約する必要がある?

[参考記事]

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3.年金を受給している人の自己破産の際の注意点

このように、公的年金は差押禁止財産であり自由財産ですが、気を付けなければいけない事があります。

(1) 既に受領した年金は処分される可能性がある

先述の通り、公的年金は「差押禁止財産」です。
しかし、既に受領した年金は、通常「現金」もしくは「預金」となっているでしょう。

この場合、自由財産の範囲を超え、破産管財人に処分をされてしまう可能性があります。

例えば、99万円を超える現金は債権者への配当に充てられてしまいますし、(裁判所にもよりますが)20万円以上の預貯金も同様に処分されてしまうことがあります。

(2) 年金受け取りと借り入れの口座を分ける

自己破産すると、借入をしている銀行の口座は凍結してしまいます。

年金受け取りと銀行からの借り入れを同じ口座でまとめている場合、口座が凍結されてしまうと、せっかくもらった年金が、取り出せなくなってしまう恐れがあります。

年金の受け取り用の口座は、借入をしている銀行とは別の銀行の口座にしておく必要があります。

(3) 税金や年金保険料は自己破産しても払う必要がある

自己破産すると、原則として全ての借金がなくなります。

しかし、未払いの債務のなかに、「税金」や「年金保険料」がある人もいらっしゃるのではないでしょうか。

「税金の滞納も自己破産でなくなる」……こう考えている方もいらっしゃいますが、実は、そんなことはありません。

税金や年金保険料は国民が必ず支払わなければいけないもので、自己破産したからといって免除されるものではありません。

これらの支払いは、役場などに出向いて個々で分納や猶予のお願いをしなければならないので、注意が必要です。

4.まとめ

自己破産は、借金が全てなくなる強力な債務整理方法です。

しかし、その代償に、持ち家や車など、自由財産以外の財産を処分しなければいけません。また、私的年金も解約しなければならない可能性があります。

一方で、借金の全額免除はされませんが、持ち家の処分や私的年金の解約をせずに債務整理ができる「個人再生」という手続もあります。

どの債務整理手続きが適切かはケースによります。
自己破産をはじめとする債務整理をお考えの方は是非、泉総合法律事務所にご相談ください。弁護士が、最後までしっかりサポートさせていただきます。

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