債務整理

家庭のお持ちの方向け、株式投資による借金で自己破産する際の注意点

家庭のお持ちの方向け、株式投資による借金で自己破産する際の注意点

低金利が続く一方、教育費がかかり、老後の暮らしも不安な昨今、働き盛りのうちから株式投資による資産運用をされる方は多くいらっしゃいます。

特に、金融業界にお勤めの方の中には、仕事で手に入れた知識を利用して投資をされている方もいることでしょう。

しかし、大きな市場の混乱に伴い多額の追証金が請求されてしまうことや、投資にギャンブルのようにハマり、多重債務となってしまうこともあります。

ここでは、家庭を持つ働き盛りの方が、株式投資の失敗で作った借金を、自己破産手続で整理する際の注意点を説明します。

1.自己破産手続の流れ

自己破産手続は、裁判所に申立てをして、財産のほとんどが処分されることを代償に、支払不能となった借金の返済義務などの金銭支払義務、つまり「債務」(債権者からすれば「債権」)のほとんどについて、全額免除してもらえる債務整理手続です。

自己破産手続で借金が免除されることを「免責」といいます。

免責されるまでの手続の流れは、簡単には以下の通りです。

(1)手続の準備

弁護士が債権者に受任通知を送付すると、取り立てが止まりますから、弁護士費用や裁判費用を積み立てます。

また、借金や財産、収入などに関する資料を収集します。

(2)申立て

裁判所に手続を申立てます。裁判所は、手続の利用条件をチェックしたうえ、二つある自己破産手続の種類のうち、どちらを採用するか判断します。

大雑把にいえば、原則として借金が免除されない事情である「免責不許可事由」があるときや、配当可能な財産があるときには、各種調査や処理を行う「破産管財人」が選任される「管財事件」が選択されます。

株式投資は、裁判所からすると、免責不許可事由の代表例であるギャンブル同然とされやすいので、ほとんどの場合は、管財事件となることでしょう。

(3)手続の内容

管財事件の手続の二本柱は、免責不許可事由の調査と、財産の配当です。

破産管財人は、債務者との面談などを通じて免責不許可事由につき調査を行い、また、債務者の財産を換価して債権者に配当します。

(4)免責許可決定

裁判所が免責を認めることを「免責許可決定」と呼びます。

免責不許可事由があっても、実務上ほとんどの場合、免責許可決定がされています。裁判所が、破産管財人の意見書をもとに、債務者の一切の事情を考慮して免責を認める「裁量免責制度」があるためです。

ですから、ネットで「株式投資による借金があると自己破産できない」というウワサを目にしたとしても、さほど心配なさらないでください。

ただし、免責不許可事由がある以上は、免責されないリスクがあることは間違いありません。裁量免責されるための注意点は、のちに説明します。

自己破産手続の基本的な説明はここまでにして、次に、自己破産手続と並ぶ債務整理手続である個人再生手続について説明します。

なぜなら、個人再生手続は、しばしば、家庭のある方が自己破産手続の代わりにすべきか悩むことになるからです。

2.個人再生より自己破産を選ぶべき場合

自己破産手続には、借金が帳消しになる強力な効果の代償に、諸々のリスクやデメリットがあります。

免責不許可事由の問題はもちろん、詳しく後述するデメリットである財産の処分や資格制限などは、株式投資をするだけの経済的余裕がある働き盛りの方には、時に大きな問題になる恐れがあります。

個人再生手続は、自己破産手続のリスクやデメリットを回避しやすい特徴があります。免責不許可事由のような規定がなく、裁判所による財産の処分も、資格制限もありません。
また、住宅資金特別条項という制度により、住宅ローンが残るマイホームを債権者に処分されないようにできる可能性もあります。

しかし、個人再生手続にもリスクやデメリットがあり、自己破産手続とは一長一短です。

自己破産手続を選択すべき場合は、以下のようなものが考えられます。

なお、詳細な具体的事情によりけりですので、あくまで、実際の法律相談の際の参考程度にお考え下さい。

(1)個人再生手続により減額された借金を支払えない場合

個人再生手続が自己破産手続に対して決定的に劣っている点は、借金の返済負担が残ってしまうことです。

少なくとも3年間にわたり、借金の一部を返済する必要があります。失敗すれば借金は復活し、結局自己破産することになるでしょう。

収入が少なすぎる場合はもちろん、それなりに収入があっても、大丈夫とは限りません。

自己破産での配当額以上の返済が義務付けられているため、守りたい財産が多ければ多いほど、返済額が増えるリスクがあります。

また、マイホームを残した場合は、住宅ローンが一切減額されないため、その負担も重くのしかかります。

自己破産手続だけが、借金を完全に支払わないでよくなるのです。

(2)マイホームが残せない場合

個人再生手続を利用しても、マイホームの処分を回避できるとは限りません

たとえば、

  • 住宅ローンの一部を教育費や生活資金に充てていた
  • 床面積の半分を超える部分が、自営業のオフィスなど自分の居住用スペース以外のため使われている
  • 住宅ローン以外の担保権がある
  • 滞納により保証会社が代位弁済してから6か月以上経過してしまった

などの場合には、住宅資金特別条項制度は利用できません。

(3)債権者の反対を回避できない場合

一般的に用いられる個人再生手続の種類では、債権者の多数決により、手続が打ち切られてしまう恐れがあります。

人数だけでなく、「借金総額の半分」を超える反対があった場合も含みます。証券会社から莫大な追証金を請求されてしまったときは、証券会社の一声で手続打ち切りとなってしまう恐れがあるのです。

債権者の反対制度がない手続もあるのですが、安定した収入が要求されるため、保険や証券の営業の方など、歩合給の割合が多い方は利用できない恐れがあります。

また、高収入で扶養家族が少ないと、借金がほとんど減額されません。

さて、自己破産手続を選択するとしても、手続に成功できるかというハードルが立ちはだかります。

3.自己破産手続で免責されるための注意点

繰り返しますが、株式投資による借金があるからと言って、裁量免責されないことは、実務上は稀です。

しかし、不適切な事情があれば、免責されない可能性があります。

以下の点には特に注意してください。

(1)株式投資による借金を真摯に反省する

自己破産手続は、債務者の生活の更生のために、借金を免除するものですから、債務者が借金をしてしまったことなどを反省して、人生をやり直す意思がなければ意味がありません。

弁護士に相談して以降は、株式投資には手を出さないようにしましょう。

破産管財人は、証券会社からの郵便物をチェックし、銀行に照会して隠し口座の有無を確認できます。

(2)誠実な態度で反省を示す

債務者の意識のあり方は、裁判所や破産管財人への態度に表れてしまいます。特に破産管財人へは、法律上、説明や協力が義務付けられています。

破産管財人は、債務者の手続への協力態度から、反省の有無を確認します。

正直な説明と、出来る限りの協力をして、破産管財人に反省していることを理解してもらいましょう。

(3)ほかの免責不許可事由をしない

たとえば、手続に協力しないことや、嘘をつくこと、資料の偽造などは、かなり悪質な免責不許可事由となります。また、法律知識のない一般の方がついしがちな免責不許可事由が、「偏頗弁済」と「詐害行為」です。

友人など特定の債権者にだけ返済する偏頗弁済は、債権者を平等に取り扱うべきという「債権者平等の原則」に反します。

また、投資の損失の穴埋めのため、金目の物を安く売り払うといった詐害行為は、債権者への配当を減らしてしまいます。

偏頗弁済や詐害行為があると、破産管財人は、流出した財産を取り戻す処理をすることがあるため、その処理に協力することで、リカバーしましょう。

なお、自己破産手続で免責許可決定がされても、例外的に免責されない支払負担がわずかですがあります。

代表例が滞納している税金です。これは、役所で分納手続を交渉しましょう。

また、離婚することになってしまった場合に気を付けなければならないのが養育費と慰謝料です。慰謝料は、DVが原因である場合などには免責されない可能性があります。

株式投資の借金など以外にも、あらゆる支払義務については、弁護士に申告し、免責されるかの確認をして下さい。

4.自己破産手続の注意点と回避策

株式投資による借金を、家庭ある働き盛りの方が、自己破産手続で無くそうとするときに、特に注意しなければならない自己破産手続のデメリットとその回避策など、主な注意点をまとめます。

(1)財産の処分

自己破産手続の代表的なデメリットです。

もっとも、全ての財産が処分されるわけではありません。「自由財産」と呼ばれる、債務者の生活に必要とされるものは、処分されません。

典型例は、家財道具や、99万円までの現金です。また、目安として20万円以下の価値を持つ重要な財産も、裁判所の運用により処分されないことがあります。

各地の裁判所により、細かくは異なりますが、大雑把には以下の通りです。

①預貯金

多くの裁判所では、残高20万円を超えると、全額が没収されます。

現金は99万円を手元に残せるのですが、預貯金など現金以外の財産は、基準額以上の価値があると全て没収となることにご注意ください。

②保険の解約返戻金

積立型の生命保険の解約返戻金も、20万円を超えていれば、契約を解約され処分されます。

お子様がいらっしゃる場合、貯蓄としての性質が特に強い学資保険の解約返戻金も処分されることも、無視できません。

③退職金

一般的な運用としては、見込額の8分の1の現金を、自由財産などから納めます。

実際に退職することは不要です。勤続年数や金額、また、裁判所の運用で扱いが大きく異なるので、弁護士に詳細を確認してください。

④持ち家

住宅ローンがなければ破産管財人により、あれば債権者により処分されます。

親族に買い取ってもらったうえ借り受けることで住み続けることは可能ですが、詐害行為になりかねないため、弁護士に必ず相談してください、

⑤自動車

自動車ローンがあるため債権者に引き上げられる恐れがあるとき、車検証の名義や契約内容次第では、ここでは解説しきれない専門的な問題が生じる恐れがあります。

自動車ローンがあることは、必ず弁護士にお伝えください。

⑥資格制限

自己破産手続中は、他人の財産を取り扱う資格を用いて働けなくなります。たとえば、警備員や保険業界、金融業界の資格です。

この業界の企業は、自己破産手続をしている人の氏名や住所が掲載される官報を独自に確認しているため、黙ってごまかしていると、解雇されかねません。

抵抗もあるでしょうが、あらかじめ勤め先に自己破産することを伝え、手続中は休職や資格を使わない部署への転属を願い出ましょう。

免責許可決定が確定して以降は、また従来通り働くことが出来るようになります。

⑦銀行口座の凍結

給料振込先の口座がある銀行から借金をしている場合、振込先を借金のない銀行の口座に変更する必要があります。

自己破産を知った銀行は、口座を凍結してしまうことがあるためです。

⑧保証人への請求

債権者平等の原則がありますから、保証人がいる借金、たとえば奨学金なども免責の対象になります。

保証人となっている親などへ、残額の一括請求がされてしまいますから、事前に連絡を入れておきましょう。

⑨ブラックリスト

自己破産手続を含む債務整理をすると、貸金業者や銀行が情報を共有している信用情報機関に登録されてしまいます。俗にいうブラックリストです。

これにより、新しくクレジットカードを作ることや、各種ローンを組むこと、他人の保証人になることなどが出来なくなります。

長くとも10年たてば登録は抹消され元通りになりますので、お子様が幼いなら、早いうちに自己破産を済ませ、大学入学などの際にお子様の保証人となれるようにしましょう。

5.株式投資による借金を自己破産するなら弁護士に相談を

株式投資による借金は、金銭的に余裕があったはずの家庭を突如襲うことがある借金問題の代表例です。

自己破産手続でも無くならないという噂に踊らされ、また、自己破産手続そのものに不安を抱いてしまう方は少なくありません。

確かにリスクやデメリットがあるものの、株式投資による借金でも自己破産手続で無くすことは出来ますし、また、自己破産手続は世間で言われているほど怖いものではないのです。

債務整理に精通した弁護士と落ち着いて相談し、冷静に個人再生手続など他の債務整理と比較しつつ、丁寧な対応をすれば、株式投資による借金問題を解決できる可能性は十分にあるのです。

泉総合法律事務所では、自己破産手続や個人再生手続等の債務整理手続に精通した弁護士が多数在籍しております。皆さんのご相談をお待ちしております。

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