東京・千葉・埼玉・神奈川の個人再生手続で減らせる金額の違い

個人再生手続は、裁判所に申し立てをして、支払不能の恐れのある借金の返済義務などの全ての金銭支払義務、つまり「債務」(債権者から見れば「債権」)の支払負担を、大きく減額できる債務整理手続です。
財産を裁判所に処分されることはなく、住宅ローンの残る持ち家も残すことができます。
もっとも、減額されるとはいえ、借金の一部は支払わなければなりません。原則3年(最長5年)で減額された借金を返済する再生計画について、履行可能であると裁判所に認めてもらう必要があるのです。その返済額は、「計画弁済総額」と呼ばれています。
計画弁済総額を定める基準の一つ、「清算価値」は、各地の裁判所で計算の仕方が異なります。
このコラムでは、首都圏の一都三県、東京、千葉、神奈川、埼玉における、清算価値の計算方法の違いを説明します。
このコラムの目次
1.個人再生手続の計画弁済総額
個人再生手続の計画弁済総額は、複数の基準で最も高額となった金額に定められます。
しばしば、代表としてあげられる基準が「最低弁済額」です。
最低弁済額は、借金の額に応じ、法律が定めている基準額です。
借金の額 |
最低弁済額 |
---|---|
100万円未満 |
全額 |
100万円~500万円未満 |
100万円 |
500万円~1,500万円未満 |
借金の1/5の額(100万円~300万円) |
1,500万円~3,000万円未満 |
300万円 |
3,000万円~5,000万円 |
借金の1/10の額(300万円~500万円) |
そして、最低弁済額と並ぶ重要な基準が、「清算価値」なのです。
(1) 清算価値とは
清算価値とは、個人再生手続を申立てた債務者が、仮に自己破産をしたとしたら、債権者に配当されると見込まれる、債務者の財産の総額です。
個人再生手続では、自己破産手続のような、裁判所による債務者財産の処分および債権者への配当はありません。
ですから、債権者の利益を守るために、配当相当額である清算価値以上の金額の返済を義務付けているのです。これを「清算価値保障の原則」と言います。
清算価値は、裁判所が再生計画を認可することを決定した時の財産の時価をもとに計算されます。
株式などを持っている場合には、再生計画認可決定のときに、株価が上昇してしまっていないかに注意しましょう。
次に、清算価値の計算方法の大枠を説明します。
(2) 清算価値の計算方法
清算価値の計算方法の中でも重要であり、また、各地の裁判所の運用に影響を与えるものが、自己破産手続で処分されないことになっている「自由財産」です。
財産全てを処分してしまったら、債務者が生活できませんから、生活に必要な一定の重要な財産は、自由財産として処分されないようになっているのです。
清算価値は、自己破産で処分されるはずの財産の見込額です。ですから、清算価値を算出するうえでも、自由財産として処分されない財産が差し引かれることになります。
(3) 自由財産の範囲
自由財産は、法律で決められているものと、各地の裁判所の運用で追加されているものがあります。
法律で決められている自由財産は、99万円までの現金、家財道具などです。
一方、裁判所の運用で追加される自由財産の範囲は、各地で異なっています。その違いが、清算価値の計算方法にも影響を与えているのです。
清算価値に関して問題となる財産は、現金以外には、主に以下の通りです。
- 預貯金
- 退職金見込額の8分の1 ※1
- 保険の解約返戻金
- 持ち家などの不動産 ※2
- 自動車やバイク など
※1 退職金について
退職金は、確実にもらえるかわからないので、一般的に、見込額の8分の1が、自由財産となります。勤続年数や退職予定時期により大きく割合が変動します。
※2 持ち家について
個人再生手続では、住宅ローンがある持ち家を債権者に処分されないようにできますが、持ち家の清算価値が問題となります。
持ち家の価値>住宅ローン残高の状態(アンダーローンと言います)ならば、その差額が清算価値になります。逆の状態であるオーバーローンならば、持ち家の清算価値は0円です。
2.東京・千葉・神奈川・埼玉の清算価値の計算方法
ここから、各地の清算価値の計算方法を簡単に説明します。
(1) 東京地裁の清算価値の計算方法
全財産から、99万円までの現金・特定の品目の価値が20万円以下の財産を差し引いた金額が清算価値となります。現金を150万円持っていた場合、現金の清算価値は150-99=51万円です。
現金以外の財産については、例えば、25万円の価値がある場合、20万円を引いた5万円ではなく、25万円全額が清算価値になります。
また、20万以下かどうかの判定は、個別の財産ではなく、品目ごとに行われます。
残高が15万円と10万円の預金口座がある場合、合計25万円ですので、25万円全額が清算価値に計上されてしまいます。
(2) 千葉・横浜地裁の清算価値の計算方法
千葉地裁と横浜地裁の清算価値の計算方法は、基本的に同じです。全財産から、99万円までの現金しか控除できません。
他の財産は、価値が20万円以下かどうかにかかわらず、全て清算価値に計上されてしまいます。
(3) さいたま地裁の清算価値の計算方法
さいたま地裁の場合は、少し特殊です。全財産から、99万円分までの財産を控除することができます。清算価値から除外できる財産総額は、金額だけを見れば、千葉地裁や横浜地裁と同じ99万円です。
しかし、清算価値から差し引くことが出来る財産は、現金に限らないところが千葉地裁などと異なります。
また、東京地裁と異なり、20万円を超える財産があっても、清算価値から差し引くことができます。
3.個人再生手続の基本
各地の清算価値の計算方法の違いについてご理解いただけましたでしょうか。
ざっと考えて、さほど返済額が大きくならないで済みそうであれば、個人再生を選択肢の一つにして、弁護士に借金問題を相談しましょう。
最後に、個人再生手続の基本を説明します。
(1) 手続の種類
個人再生手続には二つの種類があり、申立ての際に、どちらかを選べます。
小規模個人再生
債権者に反対されるリスクがあるものの、利用しやすく返済額を減らしやすいため、一般的に用いられている手続の種類です。
給与所得者等再生
利用条件のハードルが高く、返済額が膨らむリスクの大きいデメリットがある一方、債権者から反対されることが無い手続の種類です。
(2) 手続の利用条件
- 借金を支払いきれない恐れがあること
- 借金が5000万円以下であること(住宅ローンなどを除く)
- 申立ての前にさらに借金などをしなかったこと
- 将来、収入が継続する見込みがあること
- 収入が定期的で変動幅が小さいこと(給与所得者等再生のみ)
- 債権者により再生計画が否決されないこと(小規模個人再生のみ)
- 再生計画が裁判所により認可されること など
(3) 持ち家を残すための条件
住宅ローンの残る持ち家を残すには、住宅資金特別条項という制度を利用する必要があります。
その利用条件は、以下の通りです。
- 住宅ローンを持ち家と関係のない出費に充てていないこと
- 持ち家を債務者の生活のために利用していること
- 持ち家に、債務者の住宅ローン以外の借金についての抵当権がないこと
- 保証会社の代位弁済から6か月経過していないこと
(4) 手続の流れ
①手続の準備:少なくとも3か月間ほど
弁護士が債権者に受任通知を発送すると、取り立てが止まりますから、弁護士費用や裁判費用を積み立てましょう。また、必要書類を集めることも重要です。
ここでは、清算価値に関して財産の価値を証明する主な資料を一覧します。
- 銀行通帳2年分のコピー
- 生命保険などの解約返戻金証明書
- 不動産や自動車の価値を証明する書類 ※3
- 退職金証明書(退職金規定と計算書でよい場合もあります)
- 株式や外貨に関する書類 など
なお、清算価値については、「清算価値算出シート」という、清算価値を計算する書類の提出が必要な裁判所もあります。
※3 不動産の価値を証明する書類について
不動産の価値を証明する書類に関する運用は、東京地裁とそのほかの3県の地裁で異なります。
東京地裁では、「信頼することのできる不動産業者2社による査定書」の提出が、不動産価格の評価のために要求されます。
他の地裁では、原則として業者による査定書を要求しますが、より安く評価されやすい固定資産税評価額証明書でよいこともあります。
②手続の申立て
東京地裁では、申立て後すぐに、裁判所を補助する「個人再生委員」との面談があります。
ほかの3県の裁判所では、弁護士に依頼していれば、ほとんどの場合、個人再生委員は選任されませんから、面談はありません。
もっとも、支部によっては、裁判官との面談をすることもあります。また、一都三県すべての裁判所で、履行可能性を判断するため実際にお金を支払わせる「履行テスト」が始まります。
③手続開始~各種調査と再生計画案の作成~:約5~6か月間
手続が始まると、借金や財産、家計の調査がされます。
清算価値などが計算され、計画弁済総額が定められれば、次は再生計画の案を作成します。
④債権者による再生計画案の書面決議(小規模個人再生の場合のみ)
小規模個人再生では、債権者が再生計画案を認めるか多数決が行われます。
⑤再生計画の認可決定:申立てから6~7か月経過後
裁判所が、再生計画の履行可能性などの条件を判断し、再生計画の認可を決定します。
⑥再生計画に基づく支払い
再生計画認可決定が確定したあと、再生計画に基づく支払いが始まります。
計画通りに遅れることなく支払いきれば、残る借金の支払は免除されます。
(5) 手続の費用
①弁護士費用:約40万~60万円
住宅資金特別条項を利用する場合には、利用しない場合よりも10万円ほど高額になることがほとんどです。
②裁判費用:約2万5千円から3万円
債権者の数により多少前後します。一都三県、どの裁判所でもさほど変わりません。
③個人再生委員への報酬
東京地裁
弁護士に依頼した場合、15万円を、申立て以降の履行テストにより分割払いします。
弁護士に依頼しなかった場合は、25万円へと金額が上がります。
そのほか三県の地裁
弁護士に依頼した場合、原則、個人再生委員は選任されませんので、報酬は不要です。
例外的に個人再生委員が選任された場合に必要となる報酬は、下記の通りです。
- 千葉地裁:20万円を一括払い
- さいたま地裁:15万円を原則一括払い
- 横浜:18万円を原則一括払い
4.個人再生は清算価値の計算方法に精通した弁護士に相談を
借金の返済には困っているけど、すぐに現金に換えられるわけではない高価な財産がないわけではないということはしばしばあります。そのような場合に、財産を失わずに借金の返済負担を軽減できる債務整理手続が個人再生手続です。
もっとも、清算価値保障原則がある以上、守りたい財産に応じて、清算価値により返済額が増えてしまう恐れがあります。
そして、清算価値の計算方法は、各地の裁判所で異なっているため、インターネットでしばしば代表例として紹介されている東京地方裁判所の計算方法をそのまま当てはめて考えていると、いざ手続本番となったときに、返済額が予想以上になってしまいかねません。
清算価値の計算や資料の収集は、弁護士のサポートが重要です。
泉総合法律事務所では、これまで多くの借金問題を個人再生手続で解決してきた豊富な実績がございます。皆様のご相談をお待ちしております。
-
2020年9月9日債務整理 自己破産により掲載されるブラックリストについて
-
2022年11月30日債務整理 自己破産するには?破産の概要と要件のまとめ
-
2020年1月6日債務整理 個人再生の必要書類とは?