自己破産をしたら生命保険は解約する必要がある?
泉総合法律事務所では、ご相談者の方から、「自己破産をしたら生命保険は解約しなければならないのですか?」といったご質問をいただくことがあります。
たしかに、自己破産をする場合、一定のものを除いて原則全ての資産を換価・処分して債権者に分配する必要があります。
そして、生命保険(解約金)もその資産に含まれる場合があります。
ただ、自己破産をしたら、一律に必ず生命保険を解約しなければならなくなるというわけではありません。
ここでは、自己破産の手続において生命保険がどのように取り扱われるか、生命保険を解約しないで残すことはできるのかなど解説します。
このコラムの目次
1.生命保険の「積み立て型」と「掛け捨て型」
生命保険は、大きく分けて「積み立て型」と「掛け捨て型」の2つのタイプがあります。
結論から言うと、このどちらのタイプの生命保険かによって、自己破産における取り扱いが変わってきます。
「積み立て型」とは、満期や中途解約した時にお金が戻ってくるタイプの生命保険です。
預貯金と同じような感覚で、支払った保険料を貯める(積み立てる)ことができるのが特徴です。
「掛け捨て型」とは、満期や中途解約した時にお金が戻ってこないタイプの生命保険です(少額戻ってくるタイプもあります。)。
「支払った保険料が戻ってこない=捨てているのと同じ」という意味で「掛け捨て」と呼ばれています。
このうち自己破産の手続において解約しなければならないかどうかが問題となるのは、「積み立て型」の生命保険です。
なぜなら、積み立て型の生命保険を解約することにより戻ってくるお金(解約返戻金)が、破産者の資産と見做されるからです。
2.自己破産における生命保険の取り扱い
「解約返戻金」は、生命保険契約を解約することによって受け取れるようになるものですから、解約しない限り解約返戻金債権も発生していません。
しかし、自己破産の手続においては、「破産者が破産手続開始前に生じた原因に基づいて行うことがある将来の請求権は、破産財団に属する。」とされています(破産法34条2項)。
破産財団とは、簡単に言いますと、換価・処分されて債権者に配当される対象となる資産の集まりです。
つまり、将来の請求権も換価・処分の対象となる資産として扱われるということです。
したがって、生命保険の解約返戻金債権も、将来の請求権として換価・処分の対象となるということになります。
そのため、自己破産をする場合、積み立て型の生命保険は、原則として解約しなければなりません。
具体的には、自己破産の申立て後に破産管財人が生命保険を解約して解約返戻金を回収するか、または、自己破産の申立て前に破産者が自分で解約して、解約返戻金を現金あるいは預金として持ったうえで申立てをすることになります。
なお、現金については99万円までを自由財産(破産財団に含まれず、処分しなくてよい財産)として残すことができますので、生命保険を解約して解約返戻金を現金として持っている場合には、99万円までは保有できる可能性があります。
ただし、自己破産の申立て直前に解約して解約返戻金を受領した場合は、裁判所の運用によっては、現金ではなく保険のままとみなされて、現金として取り扱ってもらえない場合もありますので注意が必要です。
3.生命保険を解約しないで残す方法
では、自己破産をするとなったら、積み立て型の生命保険は全て解約しなければならないのでしょうか?
実は、積み立て型の生命保険でも解約をしなくて済む場合があります。
(1) 解約返戻金見込額が20万円未満の場合
自己破産の手続においては、破産者が経済的に立ち直ることができるように、一定の金額以下の価値に留まる財産は、換価・処分の対象とせず、自由財産として破産者の手元に残すことができる取り扱いになっています。
裁判所によって運用が異なりますが、たとえば、東京地裁の場合は、現金以外の財産については種類ごとに合計額が20万円未満であれば自由財産として取り扱われています。
ですから、生命保険の解約返戻金見込額が20万円未満であれば、解約せずにそのまま残すことが可能となります。
ただし、生命保険に複数加入している場合は、その全ての生命保険の解約返戻金見込額の合計金額が20万円未満である必要があります。
たとえば、A生命保険の解約返戻金見込額が10万円、B生命保険の解約返戻金見込額が15万円の場合は、合計で25万円となりますので、上記基準を超えており解約が必要ということになります。
(2) 解約返戻金見込額が20万円以上の場合
上でご説明したとおり、解約返戻金見込額が20万円以上の場合には原則として生命保険の解約が必要ということになるのですが、この場合でも解約しないですむ方法があります。
①解約返戻金見込額相当額を用意する
まず、解約返戻金見込額に相当する金額を用意し、それを破産財団に支払うことによって生命保険の解約を免れるという方法があります。
生命保険を解約するのは、解約することによって得られる解約返戻金を債権者に配当するためですから、解約返戻金見込額に相当するお金を自由財産から用意できるのであれば、実際に生命保険を解約しなくてすむのです。
ただ、解約返戻金見込額の金額によっては、破産者本人の自由財産から同額を用意するのが難しい場合も少なくありません。
そのような場合には、保険法で定められている「介入権」の制度を利用することも考えられます。
これは、保険受取人(保険契約者を除く、契約者・被保険者の親族または被保険者である者)が解約返戻金相当額を負担することにより、保険契約を存続させることができるようにする制度です。
②契約者貸付制度を利用する
もう1つの方法として、契約者貸付制度を利用して、自己破産の申立て前に解約返戻金の額を減らし、20万円未満にする方法も考えられます。
契約者貸付制度とは、簡単に言いますと、解約返戻金の一部を保険会社から借り入れる(前払いしてもらう)ことができる制度です。
この制度を利用して解約返戻金の額を20万円未満に減らせば、保険を解約しないですむ可能性があります。
ただし、契約者貸付制度を利用する場合には注意が必要です。契約者貸付の利用は、本来債権者への配当に充てられるべき解約返戻金という資産を取り崩す行為ですから、自己破産の申立て直前にこれを利用した場合には、債権者の利益を害する行為として、破産手続上問題となりかねないからです。
免責不許可事由として問題となる可能性がありますし、場合によっては詐欺破産罪に該当する可能性もあります。
事前に弁護士とよく相談をしましょう。
4.自己破産での生命保険の取り扱いは弁護士に相談を
自己破産手続における生命保険の取り扱いについてはご理解いただけましたでしょうか。
積み立て型の生命保険に加入している場合、自己破産をすることで生命保険を解約する必要も出てきますので、自己破産をご検討の方は、ご自身の加入している保険について一度きちんと調べておくのがよいでしょう。
泉総合法律事務所では、自己破産をはじめとする債務整理に関するご相談は無料でお受けしておりますので、借金問題でお悩みの方はお気軽にお問い合わせいただければと思います。
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