自己破産の申立てで重要な必要書類「債権者一覧表」とは
自己破産をして借金を無くしてもらうためにはまず、裁判所に自己破産手続の申立てをすることが必要です。
申立ての際には様々な必要書類・資料を提出することになりますが、中でも重要な書類の一つが、「債権者一覧表」です。
債権者一覧表は、本当に借金を支払えず自己破産が必要なのか、自己破産により借金の返済を要求できなくなる債権者は誰なのか、などを裁判所が確認するための書類です。
ここでは、債権者一覧表の基本について分かりやすく説明します
このコラムの目次
1.債権者一覧表とは
債権者一覧表は、自己破産手続を裁判所に申立てる際に、裁判所に申立書などと一緒に提出する必要書類の一つです。
手続の対象となる債権者、それぞれの債権者への借金の金額などを記入します。
(1) 債権者一覧表はどうして重要なのか
自己破産手続で借金を無くすには、
- 借金がもう支払えないこと(「支払不能」と呼ばれます)
- 一定以上の財産があれば、債権者に財産を分け与えること(「配当」と呼ばれます)
が必要です。
裁判所は、債権者一覧表により債務者がだれにどれだけの借金を負っているかを確認し、債務者が支払不能であるといえるか、借金返済を要求できなくなるかわり、配当を受けられる可能性のある債権者は誰か、などを判断します。
特に、債権者全員が申告されているか、その借金の金額があっているかは、次に説明する「債権者平等の原則」という自己破産手続の重要なルールのために非常に重視されます。
(2) 公平にすべての債権者を申告する必要
債務者を借金漬けの生活から救うためとはいえ、債権者に大損害を与えてしまう自己破産手続では、債権者の保護や公平が重要です。
「債権者平等の原則」は、そのような債権者の保護や公平を守るための大切なルールです。
具体的には、債権者は手続の中で公平に扱われなければならず、えこひいきされることがあってはいけないという原則です。
自己破産手続の対象とする債権者は、債権者の全員でなければなりません。特定の債権者を除外することはできないのです。
そのため債務者は、自己破産手続の申立てをする際に、全ての債権者を記載した一覧表を裁判所に提出する必要があります。それが債権者一覧表というわけです。
2.債権者一覧表の中身を偽造した場合のリスク
このように、債権者一覧表は非常に重要な必要書類です。
ですから、その内容が事実と違っていた場合、不利益を受けるリスクがあります。
- 手続の負担が重くなる
- 自己破産が失敗して借金がなくならない
- 債権者一覧表に書き込まなかった借金がなくならない
(1) 手続の負担が重くなる恐れ
わざとウソの債権者一覧表を提出すると、少なくとも、手続の費用や負担が重くなってしまいます。
債権者一覧表にウソを書くと、裁判所の調査を受ける
自己破産手続では、債務者が不適切なことをした場合など特別な事情があると、原則として手続をしても借金を無くしてもらえなくなってしまうというルールがあります。
このような事情を「免責不許可事由」と言います。
免責不許可事由があると、裁判所は、その調査をする「破産管財人」を選任します。
破産管財人が選任されることによる問題
破産管財人には、報酬を20~50万円ほど支払わなければいけません。
また、破産管財人の免責不許可事由に関する調査に協力することも必要です。
そのため、一般的には費用や手間の負担が大きくなってしまいます。
破産管財人が選任される手続は「管財事件」と呼ばれています。
免責不許可事由がなくても、配当できる財産があれば、管財事件となり破産管財人が選任されます。
逆に言えば、配当できる財産がなく、管財事件とならなくて済んだはずなのに、わざとうその債権者一覧表を提出してしまうと、管財事件となってしまって手続の費用や負担が重くなってしまうのです。
なお、債務者に財産も免責不許可事由もない場合には、破産管財人が選任されない、費用や手間が比較的かからない「同時廃止」という種類の自己破産手続が用いられます。
(2) 自己破産が失敗して借金がなくならないおそれ
実は、免責不許可事由があっても、実際に借金がなくならないことはめったにありません。
「裁量免責制度」と言って、裁判所が、破産管財人の報告をもとに、債務者の事情一切を考えて、借金を免除しているからです。
ただし、免責不許可事由に関する事情が悪質だったり、手続の中でウソをつくなど反省が見られなかったりなどの事情があると、本当に借金を無くしてもらえないことがあります。
債権者一覧表にウソの記載をすることは、裁判所をだまして債権者の公平を害するものです。
かなり悪質な免責不許可事由になりますから、それだけで借金が免除されない恐れが大きくなります。
もっとも、手続が始まっても、債権者が裁判所に意見を言える期間が終わるまでは、債権者を追加で申告することができます。
正直に申告して、反省を態度で示せば、裁量免責される可能性は十分あります。
しかし、
- 裁判所や破産管財人からの指摘に対してさらにウソの説明をする
- 債権者一覧表のウソをごまかすために資料をねつ造する
など、不誠実な対応をした場合は、非常に厳しくなるでしょう。
そもそも、ウソの説明や資料ねつ造自体も免責不許可事由です。下手をすれば、犯罪にもなります。
(3) 債権者一覧表に書き込まなかった借金がなくならないおそれ
うっかり債権者を申告し忘れた場合には、(裁判所がそうだと認めてくれれば)免責不許可事由にはなりません。
しかし、債権者一覧表に書き込まなかった借金は、免責許可決定がされても、支払わなければならない恐れがあります。
- 債務者の不注意のせいで債権者一覧表に借金が記載されなかった
- その借金の債権者が、債務者が自己破産したことを知らなかった
という条件がそろうと、その債権者への借金は、「非免責債権」と呼ばれる、免責許可決定されてもなくならない借金になってしまいます。
なお、わざと記入しなかった場合ももちろんこのリスクは存在します。
もっとも、自己破産手続の中で、記載されなかった借金が免除されないことになるかの判断はされません。
債権者一覧表に記載されていなかった債権者が、自己破産手続の後に、「自分が持つ債権は非免責債権だから返済しろ」と訴訟をした裁判所で、その借金が非免責債権かどうか、免除されないかどうかが最終的に判断されます。
つまり、最終的に借金を支払わないでよいということになっても、自己破産手続後もゴタゴタが続きかねないのです。
3.債権者一覧表作成上の注意点
債権者一覧表を正確に作成するためにも、以下のことに注意しなければなりません。
(1) 資料をしっかり集めて弁護士に提出する
債権者を正確に確認するには、専門的な知識や経験に基づく判断が必要なことも多いため、弁護士に頼る場面も多いでしょう。
とはいえ弁護士も基礎となる資料がなければ、正確な債権者一覧表の作成をすることはできません。
銀行口座の預金通帳・家計簿などは、もとから裁判所に必ず提出しなければならない重要な資料ですが、だれからいくら借金をしているのかを調べるためにも大きな役割を果たします。
また、借金に関する契約書や請求書・ATMの利用明細書なども、出来る限り集めて弁護士に提出しましょう。
請求書や利用明細書により、いつの間にか債権者が変更されているとわかることがあります。
単に業者名が変わった場合だけではなく、合併や吸収などの企業再編があった場合・債権者の倒産後に債権回収会社(サービサー)に債権が売却されている場合・借金の保証会社が元の債権者とすり替わっている場合など、意外と債権者の変更は多いのです。
債権者変更の通知書面自体があれば、必ず弁護士に提出してください。
(2) 友人など申告し難い債権者も正直に申告する
友人や親族、勤務先など、自己破産の事実を知らせたくないし、そもそも、借金を返済し続けたい債権者もいることがあります。
一般的に自己破産をしようという人でも、上記のような親密な関係にある債権者については、つい弁護士や裁判所などに隠してしまうことがあるのですが、絶対にやめてください。
免責不許可事由になるという問題もありますし、かえって、非免責債権かどうかという争いが蒸し返され、関係がより悪化しかねません。
- 他人に保証人になってもらっているため、債務整理をすると保証人に一括請求されてしまう借金
- 自動車ローンなど、債務整理をすると担保となっている財産が処分されてしまう借金
も、債権者平等の原則に基づき申告は必要です。
弁護士の助言のもと、関係者とともに事前の調整や相談をしてください。
(3) 他人の借金の保証人になっていないかよく思い出し確認する
あなたが他人の借金の保証人になっている場合、その他人が借金を返済できなくなれば、保証人が返済する義務を負っています。
つまり、保証債務もれっきとした借金であり、債権者一覧表に記載をする必要があります。
保証人が自己破産しても、保証の対象となっている借金をしている本人に直ちに影響が及ぶとは限らないのですが、問題は違うところにあります。
子どもの奨学金や住宅ローンなど、保証人が求められる借金は、しばしば返済期間が長期にわたります。そのため、そもそも保証人になっていたことを忘れてしまいがちなのです。
出来る限り、保証人になったことはないかを思い出し、心当たりのある関係者に連絡をして、資料を調べて確認してください。
4.「債権者一覧表」は正直に記載しましょう
債権者一覧表は、自己破産手続の初めの申立の時点で、債権者や借金を確認するための重要な書類です。
債権者は債務者の自己破産で大損害を受けます。
ですから、裁判所は債権者の利益や公平には非常に敏感です。
返済を継続したい友人を申告しないなど、わざと虚偽の記載をすればもちろん、ついうっかり忘れてしまっていたという場合であっても、トラブルのもとになってしまいかねないのです。
債権者からの通知など各種書面の内容を確認するだけでも、一般の方には骨が折れることになりかねません。そのため自己破産手続には法律の専門家である弁護士のサポートが不可欠です。
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