交通事故の損害賠償請求で重要な過失割合|歩行者対自動車事故の場合
歩行者対自動車の事故と聞くと、自動車が絶対的に悪く慰謝料も高額になると考える方も多いのではないでしょうか?
このイメージの一部は正しいといえますが、一部は誤りともいえます。
というのも、歩行者対自動車の事故で必ず過失割合が0:10になるとは限らないためです。
自動車が加害者で歩行者が被害者という視点があるため、歩行者に過失が認められるケースは想像しにくいのかもしれません。しかし、実際のところ歩行者にも過失が認められ、損害賠償額に影響がでることもあります。
そこで、今回は歩行者対自動車の事故に関する過失割合を解説します。過失割合の基本から、歩行者対自動車の過失割合の具体的事例、歩行者の過失が認められるケース、過失割合は変えられるのかという疑問まで、一挙に見ていきましょう。
このコラムの目次
1.過失割合の基本
歩行者は交通弱者として扱われる?
まずは、過失割合の基本について学んでいきましょう。歩行者対自動車の過失割合の原則論も一緒にみていきます。
(1) 過失割合とは
過失割合とは、当該事故に対する当事者の落ち度の割合を定めたものです。歩行者2(20)対自転車8(80)というように表記し、それぞれの過失の事故への寄与度を判断します。
過失割合は、損害賠償金の負担についてはこれを基礎に決められます。損害賠償額を誰がどの程度負担するのかを判断する際に、過失割合が必要不可欠な指標となるのです。
(2) 原則として、車の過失割合が高くなる
交通事故が起きた時、どちらにどの程度非があるのかは、事故当時の状況や当事者の過失の内容などによって変化します。
しかし、信号無視があったことや横断歩道で徐行しなかった場合など、いくつかの過失は定型化することができます。
法律実務では、交通事故に関するこれまでの判例をもとに、当該案件に近い事案をあてはめ、過失割合を算定していくことになります。
その上で、修正要素といって個別事情を加えた上で最終的な過失割合を算定していくのです。
歩行者対自動車の事故に関しては、基本的にドライバーの過失割合が高くなります。
というのも、自動車は高速度で走行する金属の塊です。これが人間に衝突すると重大な事故につながるのは誰にとっても明らかです。
自動車は、交通弱者である歩行者にとっては危険な物となりかねないため、過失割合の算定時も最初から自動車の過失が高く設定されています。
また、ドライバーには、道路交通法上の義務が課せられているため、運転する際、危険を回避する義務が常に課せられています。
そのため、これに反するという点で、交通事故の際は自動車の過失が高くなるのです。
このような理由から、歩行者対自動車では原則として自動車の過失割合が高く設定されています。
2.歩行者対自動車の過失割合の決まり方
次に、歩行者対自動車の実際に想定される事例から、どれくらいの過失割合になるのかを説明します。
(1) 横断歩道上を通行していた場合
歩行者対自動車の過失割合は、どこを通行していたかによって判断するのが基本です。具体的には、横断歩道上か、信号は何色だったのか、交差点上の事故かなど事故時の道路の状況によって、事案をあてはめていくことになります。
まずは、横断歩道上の歩行者対自動車の事故について見ていきましょう。過失割合は、歩行者:自動車の順となります。
①横断歩道上で信号機があるケース
まずは、基本的な事例から見ていきましょう。歩行者(青信号)、自動車(赤信号)の場合は、自動車に10割全ての過失割合があることになります。この逆で、歩行者が赤信号であった場合は7:3となります。
次に、どちらかが黄色信号だったケースを見ていきましょう。
歩行者の信号が黄色だった場合は、歩行者にも事故への責任があります。
黄色は通行して良いと考えている人が多いのですが、実はその逆です。黄色信号の時は原則として止まらなければいけません。そのため、過失割合は1:9となります。
逆に歩行者が赤信号で、自動車が黄色信号であった場合は、5:5の過失割合です。
最後に赤信号のケースです
両方が赤信号で通行し事故を起こした場合は、2:8の過失割合となります。
両者に過失がありますが、自動車の方が強者であることから危険回避義務が大きく、8割の責任を負うのが通常です。
②横断歩道上で信号機がないケース
では、横断歩道上で信号機がない場合はどうなるのでしょうか。
信号機がない場合には、歩行者が優先です。そのため、信号機のない横断歩道上で事故が起きた場合には、自動車の過失が重くなります。具体的には、自動車の過失割合が10割です。
このように、通行時の信号の色によっても過失割合は大きく変わります。
(2) 横断歩道以外を通行していた場合
次に、横断歩道以外の場所で事故が起きた場合の過失割合を見ていきましょう。
①横断歩道周辺での事故のケース
横断歩道が近くにあるにもかかわらず、横断歩道外を歩行者が通行し事故が起きた場合は、歩行者の過失もしん酌されます。
具体的には、2.5:7.5の割合となるでしょう。
②横断歩道のない交差点事故のケース
横断歩道がない交差点上での事故の場合、基本的には自動車の責任が重くなります。
過失割合は概ね2:8が基本となるでしょう。
③駐車場内での事故のケース
駐車場内は歩行者と車が頻繁に行き交うため、実は事故が起きやすいスポットです。仮に通路上で事故が起きた場合には、1:9の割合で車の責任が重く判断されるでしょう。
横断歩道上の事故やそれ以外の道路上での事故に限らず、紹介した割合はあくまで基本となるものです。
これに加えて、歩行者の年齢(子ども、高齢など)や道路の種類(幹線道路、生活道路)、事故の時間・道路の状態(昼夜、雨で地面が湿っていたなど)の修正要素が加えられ、最終的な過失割合が決まります。
個別事情を加えると、0.5-2割程度変わってくる可能性もありますので、気になる方は弁護士に相談してみてください。
3.歩行者の過失割合が高くなるケース
次に、歩行者の過失割合が高くなるケースはあるのかについて見ていきましょう。
(1) 歩行者の過失割合が高くなるのは、赤信号での通行
紹介した通り、基本的には自動車の過失割合が高くなります。しかし、赤信号で歩行者が通行していたケースなど、明らかに歩行者に過失がある場合は、歩行者の過失が高くなるケースもあります。
例えば、歩行者(赤)、自転車(青)で、横断歩道上で衝突した場合、過失割合は7:3となります。
歩行者(赤)で自転車(黄)であった場合でも、7:3の過失割合となり、歩行者の過失割合は高くなります。
したがって、どんな状況でも歩行者の過失が低くなるわけではないのです。
これ以外でも、幹線道路を歩いていた場合や横断禁止の規制があるのに歩行者が通行していたケース、急な飛び出しがあった場合には、0.5-1割程度過失割合が上がります。
これらの修正要素により、過失割合が高くなり損害賠償額も変化することはあり得るのです。
このように、歩行者の過失割合が高くなるケースも実際に存在します。
(2) 過失割合は後から変更されることもある
相手方の保険会社から過失割合が提示され、「思っていたものと違っていた」ということはよくあることです。
実際、交通事故では過失割合に争いが出ることも多く、交渉で当事者が和解し合意に至ることもありますが、両当事者ともに合意点を見出せない場合は裁判で決着をつけることになります。
それぞれが主張する過失割合の根拠である証拠を提示し、裁判官に決着をゆだねます。
裁判途中に和解となるケースもありますが、和解できる場合は裁判前の交渉で解決できることも多いのです。したがって、提示された過失割合に納得できない場合は、別の割合を主張することもできます。
そして、交渉内容によっては、過失割合は変えられるというのが答えとなります。
では、どのような事情があれば過失割合は変更できるのでしょうか。
過失割合は、事故状況に関する当事者の主張だけでなく、客観的な証拠から自転車が赤信号で走行していたのか、その他の過失はなかったのかなどを調査します。
自転車側は「黄色で走行していた」と主張しているが、歩行者は「自転車は赤信号で走行していた」と主張が食い違うことがあります。
この場合は、主張に矛盾する点がないか等それぞれ反論することになります。
一番有効なのは、道路上のカメラや周囲の人の目撃証言などの別の新証拠が明らかになった場合です。新たな証拠により、どちらかの主張を裏付ける決定的な証拠が見つかれば、過失割合は変更されることになるでしょう。
もちろん、後から出てくる証拠は当事者にとって良いものとは限りません。主張になかった別の過失があれば、過失割合も修正されます。
4.過失割合に納得できないなら弁護士に相談を
今回は、歩行者対自動車の過失割合について説明しました。
対歩行者との関係では、自動車は圧倒的に不利になります。皆さんも、運転する際は歩行者に十分注意し、歩行中も怪我をしないよう交通マナーを守るようにしましょう。
もし事故にあってしまったら、過失割合が妥当であるかどうかはしっかりと確認しておいたほうが良いでしょう。
しかし、実際の交通事故の態様は細かな事情がたくさんあることも多く、どのくらいの過失割合が妥当なのか判断できないこともあると思います。そんなときは、交通事故を多く取り扱う法律事務所や弁護士にご相談ください。
相手方の主張する過失についても納得できない場合は、妥協してはいけません。交渉をおこない、納得できる内容で示談合意をするべきです。
交渉は被害者だけでは難しいこともあります。話し合いが難航したら、弁護士にお任せください。
泉総合法律事務所は、交通事故案件を多く取り扱い、解決実績も豊富です。過失割合でお悩みの方はどうぞ安心してご相談ください。初回のご相談は無料となっております。
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