入院付添費について|支払状況の最近の動向
交通事故の結果、被害者の方が重傷を負ってしまったため、入院してしまった場合には、様々な方が色々動いたり、備品を購入したりする必要性があります。
もっとも、この全てが交通事故による損害として認められるわけではありません。そこには一定の基準があります。
交通事故と相当因果関係のある損害として認められるためには、原則として事故から直接生じた損害といえる必要があります。
付添費の場合には、具体的にはどのように表れるのでしょうか。
裁判例上、職業付添人の他、被害者の親族が無償で介助を行う場合についても、被害者の入院中における「介護・介助のために付添いの必要」がある場合であれば、相当因果関係のある損害として、入院付添費の請求が認められています。(最判S46.6.29)。
付添いの必要がある場合とは、具体的にどのような場合なのでしょうか。その判断基準について、以下、説明します。
このコラムの目次
1.付添の必要性について
入院時の付添の必要性については、裁判例上「医師の指示または受傷の部位、程度、被害者の年齢等から」付添が必要といえる場合において、認められています。
このメルクマール(判断の指標)からすれば、医師の指示があれば、原則として認められることになります。
もっとも、現在の医療機関においては、完全看護制度が前提となっています。このため、医師から要付添の証明がなされないことが基本的な状態となっています。
しかし、入院付添の必要性のメルクマールには、以上の通り、「または」と記載されていますので、医師の指示がなくとも、「受傷の部位、程度、被害者の年齢等」を考慮して付添いの必要性を認めて、付添費用を認める裁判例が多いです。
以下、それぞれ分類ごとに簡潔に説明します。
(※あくまでその傾向があるということであり、絶対そうなるわけではありません。)
2.分類ごとの裁判例の傾向について
(1) 被害者の身体の自由がきかない場合
被害者の身体の自由がきかない場合については、当然、様々な介助が必要であることが多いので、比較的認められる傾向があります。
具体的には、重篤な脳損傷や脊髄損傷の場合、意識覚醒のための声かけ、痰が詰まったとき看護師を呼ぶなど容態の変化の看視、体位変換による褥瘡防止、マッサージによる間接拘縮防止、食事、清拭、排泄といった日常生活動作の介助、脳機能の障害による自傷や徘徊などの問題行動の看視といった行為が必要となることが指摘されています。
また、入院中だけでなく、介護を必要とする事例では、自宅介護に備えてリハビリに参加する必要があることが指摘されています。
この類型について主張する際には、以上の行為を行った記録・日記などがあると、なおよいです。
(2) 上肢・下肢の骨折
上肢・下肢の骨折においては、やや認められる傾向にはあるものの、判断が分かれています。
例えば、患部がギプスで固定したり足を吊ったりするなど、手足の負傷やその治療により行動が制約されている場合に、近親者が日常動作の介助を行うことを指摘して、付添の必要性が認められていることが多いです。
しかし、自己の翌日から安定的に車椅子での移動ができたり、松葉杖で移動が容易であったりするなど、骨折の状況や治療の状況次第では、付添の必要を認めないケースもあります。
(3) 幼児・児童の場合
幼児・児童の場合、心身が未成熟であり、また親の監護の下で生活しているのである点からすれば、症状にかかわらず、付添の必要性が認められることが多くあります。
(4) 危篤状態
危篤状態など家族が医療機関に待機することが当然と思われる場合であり、家族による看護の必要がない場合については、付添費用が認められるケースもありえます。
もっとも、医療上、介護上の観点から近親者が何らかの行為をする余地があるとされる場合は少ないものと思われます。
どちらかというと、認めている場合は、医学的な付添いの必要性という点よりも、肉親の情誼の面を考慮して認めているケースが多いものと思われます。
(5) 精神的不安定な場合
精神的不安定な場合の付添いについては、消極的な傾向にあります。
身体的には軽傷であり、日常動作は可能であるものの、事故により精神的に不安定になっているという場合については、付添の必要性は認められにくいことが多いです。
逆に、認めている事案としては、単なる不安とかのレベルではなく、重いPTSDの症状が発症したこと等、現実に具体的な不調を来している場合が多いです。
仮にこの点の付添費用を主張したいのであれば、事故後早期に精神科に通っているなど、相当因果関係に注意して行う必要があります。
3.付添費の金額
(1) 付添費の日額
以上の結果、付添費が認められるとして、その金額はおおよそ日額いくらなのでしょうか。
交通事故に携わる実務家が利用している「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」(通称「赤い本」)には「日額6,500円。症状により、また、被害者が幼児、児童である場合には、1~3割の範囲で増額を考慮することがある」と記載されております。
このため、被害者の状態が極めて重篤な場合や、被害者が年少である場合などにおいて、長時間あるいは負担の重い看護が必要となった場合については、その評価により増額されるケースがあります。
(2) 有職の近親者が休職して付き添った場合
また、有職の近親者が休職して付き添った場合については、近親者の休業損害 については近親者自身の損害であり、「間接損害」であるため基本的には被害者の損害とはいえませんので、原則としては認められません。
ただ、受傷内容等によっては、この損害について付添費用として考慮し、近親者の実収入を参考にした上で、一般的な金額よりも高額の付添費用を認めるケースもあります。
4.交通事故の付添費用は弁護士に相談を
いかがでしたでしょうか。付添費用については、「受傷の部位、程度、被害者の年齢等」が重要な要素となります。
また、交通事故と相当因果関係のある損害といえるためには、原則として「事故から直接生じた損害に限る」ところ、例外的に有職者の休職による給与減額を基に付添日額を算出したり、危篤状態の際にも、肉親の情誼の面を考慮して民法711条の要件を満たしていなくとも付添費用の損害として認めたりなど、必ずしも理論的とは言い切れない部分もあります。
このような部分では、理屈から直ちに導き出せるものではなく、交通事故の裁判例の集積や経験により、判断を下すことができる領域でありますから、交通事故に熟知している専門の弁護士にご相談ください。
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