交通事故でむち打ちと診断されたら後遺障害認定される?
交通事故後に「むち打ち」の症状が出てしまう被害者の方は多くいらっしゃいます。
追突事故などで首が大きくしなり、頸椎が衝撃を受けると、その後に痛みや麻痺が発生してしまいやすいのです。
その「むち打ち」になった場合、後遺障害認定を受けられるケースと受けられないケースがあります。
今回は、むち打ちで後遺障害認定を受けられる場合と受けられない場合の違い、効果的に後遺障害認定され、正当な賠償金額を獲得する方法について解説します。
このコラムの目次
1.むち打ちの症状
むち打ちとは、交通事故などで「頸椎」を損傷することによって発生するさまざまな症状です。
頸椎とは首の骨のことですが、ここには人間にとって重要な頸髄という中枢神経が通っています。
頸髄は脳からのさまざまな指令を肩や腕、手などの部位に送るもととなります。
追突事故に遭うと、その頸椎を損傷するので頸髄にも影響が及び、以下のような症状が発生します(常にすべての症状が出るわけではありません)。
首の痛み・首を動かしにくくなる(可動域制限)・筋力低下・肩や背中の痛み、こり・腕の痛み・手のしびれ・めまい、耳鳴り・食欲不振、吐き気・握力低下・だるさ・頭痛、頭重感
なお「むち打ち」は一般的な呼び方であり、正式な診断名ではありません。
多くは「頸椎捻挫」「外傷性頸椎症候群」などと診断されます。「バレ・リュー症候群」や「椎間板ヘルニア」「脊柱管狭窄症」などの診断名となるケースもあります。
診断名によって通院すべき病院や治療方法が異なる可能性があるので、むち打ちになったときにはしっかり医師に診てもらって、適切な治療を受けましょう。
2.むち打ち後遺障害で認定される等級
交通事故でむち打ちになると、長期間治療やリハビリを続けても完治せずに、痛みやしびれ、可動域制限などの症状が消えないケースがあります。
むち打ちが完治しないなら「後遺障害」として認定される可能性があります。
交通事故では、後遺障害認定されると、認定された等級に従って「後遺障害慰謝料(後遺障害が残ったことに対する精神的損害への賠償)」や「後遺障害逸失利益(後遺障害により将来得られなくなった収入に対する賠償)」が支払われます。
むち打ちで後遺症が残ったなら、きちんと後遺障害認定を受けて適切な賠償金を受け取るべきです。
(1) むち打ちで認定される等級
むち打ちで認定される後遺障害の等級は、多くの場合12級か14級です。
12級では、後遺障害慰謝料の金額が290万円程度となります。逸失利益の金額は人によっても異なりますが、1,000万円前後になるケースもあります。
14級では、後遺障害慰謝料の金額は110万円程度となり、逸失利益の金額は500万円以下となるケースが多数です。
(※いずれも弁護士に依頼した場合の相場です)
それぞれの等級に認定される条件がどのようなものとなっているのか、みてみましょう。
(2) 12級が認定される条件
むち打ちで12級の後遺障害認定を受けるには、画像による他覚的所見の立証が必要です。
他覚的所見とは、他者から見てわかる明らかな症状です。
つまり、MRIやCT、レントゲンなどの画像検査において「明らかに異常な症状」が写っていたら「他覚的所見がある」と言え、12級の認定を受けられる可能性が高くなります。
画像検査にはMRIやCT、レントゲンなどのさまざまな種類がありますが、むち打ちで12級の認定を受けるのに特に重要なのはMRIです。
CTやレントゲンは主に骨折や骨の異常を把握するための検査ですが、むち打ちの場合には骨折を伴わないケースも多いので、MRIによって組織の異常を確認することが重要となります。
(ただしCTなどを撮らなくて良いという意味ではありません。)
(3) 14級が認定される条件
むち打ちで14級の認定を受けるためには、MRIなどの画像による医学的な症状の立証は不要です。必要なのは「自覚症状に合致する症状があると合理的に推定できること」です。
つまり、被害者が訴えている痛みやしびれなどが「おそらく実際にあるらしい」と推定できれば、14級が認められる可能性があります。
ただ、どういった場合に「推定できる」のかはあいまいです。被害者としては「痛みやしびれがあるから後遺障害認定されて当然だ」と思っていても、実際に後遺障害認定の請求をしたら「非該当」とされてしまう例が多々あります。
14級で後遺障害認定を受けるには、事故当初から一貫してむち打ちに典型的な症状を訴え続けること、(画像検査では症状を立証できなくても)他の神経学的検査によって症状を説明することなどが重要です。
[参考記事]
後遺障害等級認定の認定基準とは?
3.むち打ちで後遺障害認定を受けるポイント
むち打ちで後遺障害認定を受けるには、以下のようなことに注意して対応しましょう。
(1) 事故が起こったらすぐに病院に行く
まずは交通事故が起こったら「すぐに」病院に行きます。
追突事故などでむち打ちになった方は、外傷がないことや事故直後に痛みを感じないことから「怪我はしていないだろう」「軽傷だろう」などと考えて病院に行かない方が多数いらっしゃいます。
1日、2日が経過して痛みが出てきても「気のせいかも知れない」と考えて放置し、1週間くらい経ってから始めて病院に行くこともあるようです。
しかし、あまり日数が経ってから病院に行くと「症状は交通事故によって発生したものではない」と因果関係を否定される要因となってしまいます。
追突事故などで首に衝撃を受けたら、交通事故後すぐに病院に行き、その後も痛みなどを感じたら通院治療を開始しましょう。
(2) 不合理な変遷をしない
むち打ちになった方は、通院治療中、医師にうまく自分の症状を説明できないケースが多々あります。
多いのは「今日は肩が痛い」「最近は背中が痛い」「今度は首を動かしにくい」などと訴え、「症状が変遷する」パターンです。
しかし、主訴とする症状が変遷すると「本当にそのような症状があるのか?」と疑われる原因になります。
むち打ちで後遺障害認定を受けたければ、医師に症状を訴えるときに不合理な変遷をしないように注意しましょう。
なお、これは「嘘をつくように」という意味ではありません。
むち打ちになった場合、ときによって感じる症状が違っても、一貫して身体の調子の悪い状態が継続しているはずです。主にそういった長期的な症状を主訴として伝えるようにすれば、医師に誤解されずに済むでしょう。
(3) 定期的に通院をする
むち打ちの治療期間が長くなってくると、だんだんと通院を面倒に感じてしまったり、忙しくて通院を後回しにしてしまったりする方がいらっしゃいます。
通院頻度が減っていき、最終的には1週間に1度、1か月に2回などと減ってしまうケースもみられます。
しかし、あまりに通院頻度が減ると「完治したのだろう」と思われてしまう恐れがあります。
忙しくても症状が残っているならきちんと通院を続けるべきで、最低でも週2、3回は通院しましょう。
(4) 必要な検査をしっかり受ける
むち打ちの症状を証明するには、MRIや神経学的検査が非常に重要です。まずは精度の高いMRI機器のある整形外科を受診して、きちんとMRI画像の撮影をしてもらいましょう。
また、むち打ちの症状に詳しい専門病院を探し、MRI以外にも適切な検査を受けるべきです。むち打ちの立証に有効な神経学的検査としては、ジャクソンテスト、スパークリングテスト、可動域に関する検査、筋力テスト、反射テストなどがあります。
検査不足では認定を受けられるものも受けられなくなるので、しっかり対応しましょう。
(5) 医師と綿密なコミュニケーションをとる
後遺障害認定を受けるには、医師とのコミュニケーションが非常に重要です。通院当初から症状の内容などを正確に伝えてカルテに残してもらいましょう。
検査の実施や後遺障害診断書の作成をしてもらう際にも、コミュニケーションをとれていることがポイントとなってきます。
(6) 被害者請求によって申請する
後遺障害認定の方法には、任意保険会社に依頼する「事前認定」と、被害者が自分で手続きをする「被害者請求」の2種類があります。
認定を受けられるか微妙なむち打ちの案件では、被害者が自分の裁量で主張や立証をできる「被害者請求」を選ぶべきです。
なお、被害者請求では、準備しなければならない書類が多くなり、手続きも煩雑ですので、弁護士にサポートを依頼することをお勧めします。
4.まとめ
交通事故でむち打ちになったとき、適切に後遺障害認定を受けて必要な賠償金を受け取るには、弁護士によるアドバイスとサポートが必要です。
交通事故に遭い、むち打ちなどの後遺症お困りの方がいらっしゃいましたら、お気軽に泉総合法律事務所の弁護士までご相談ください。
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